帰命の鐘と名付く
神力寺 亀山環舜
今年は桜が遅咲きでした。入学式まで桜が残るのなんて何年ぶりだろうと考えさせられました。最近は雨が多いですね。「菜たね梅雨」なんでしょうね。暑かったり寒かったり忙しい天気です。こういう天気は体調を崩しやすいようです。ご自愛下さい。
皆さまのお陰で「鐘つき堂」の建設が決定いたしました。ありがとうございます。今年の年末 十一月末の完成を目指して進めてまいりたいと思います。
梵鐘は富山県高岡市にある老子(おいご)製作所に頼みました。この会社は梵鐘では国内シェア約70%を占める梵鐘づくりの大手メーカーで江戸時代から四百年近く続く高岡銅器の歴史と共に大小2万鐘以上を送り出し、主な納入先に西本願寺や三十三間堂、成田山新勝寺、我が宗日蓮宗の池上本門寺など名刹・古刹が並び、広島市の「平和の鐘」も手がけた鋳物作りのエキスパートの会社です。梵鐘の他に仏像や銅像・カリオン・モニュメントなども造っています。
梵鐘作りの工程は、まず砂と粘土を混ぜ合わせた土で鋳型を作る。ガス溶融炉で銅とスズを溶かし、鋳型に流し込む。鋳型が冷めるのを待って鋳型の土を取り除き鐘を取り出す。それを黒色に塗り、仕上げに向かう。
鐘は「一口(いっこう)」と数えますが、一口一口が手作り作業で、同じものはできない。独特の余韻の長さとうなりを生むため、奈良時代以来の造型法に加え、各部の細工の製法、特に鋳型を形作る真砂土にも神経を使う。このため、梵鐘を一口製作するのに短くて3~4カ月かかる作業です。
神力寺の梵鐘は来月5月18日に鋳型に銅とスズを流し込む火入れ式を行います。檀信徒4名、法心寺副住職の佐々木智浩上人・設計士の飯島聡さん、そして私と家族、総勢十二名で臨みます。その際に皆さまのご先祖さまの大切な方の供養と家内安全・身体健全などの個々の願いがこもった銅の札をその中に溶かし流し込み、お経を上げて祈りを捧げて参りたいと思います。
その願いのこもった鐘を『帰命の鐘』と名付けました。帰命(きみょう)とはいのちに感謝し敬うこころのことです。この梵鐘には未来永劫に亘って、いのちに感謝し敬う心を忘れずに伝えていってほしいという願いを込めました。
法華経の第20番目に常不軽菩薩品というお経があります。その中で不軽菩薩(ふきょうぼさつ)さまは
「私は深くあなたを敬います。決して軽(かろ)んじたりしません。なぜなら、あなたは菩薩の修行を行い必ず悟りを得た佛さまになられるからです」
と会うすべての人に礼拝し、仏さまになりました。日蓮聖人はこの不軽菩薩の行いこそが「人の生き方の手本」だと示されています。
なかなかこんな風には思えないかも知れませんが、他人の事を思い合えるようになれば、きっと住みよい世の中になるのではと思います。お節介という言葉を忘れた私達にとって一番必要なものです。その思いを梵鐘に刻みます。
梵鐘の妙なる響きが 御霊(みたま)安らかに また
衆生の願いと心の静寂(せいじゃく)を与え給わんことを
いかなる厄災(やくさい)ありとも 人と人とが縁を結び
安穏(あんのん)なる世界を顕現せしめ給わんことを
どんな逆境でも負けない、お節介な人になろう!
南無妙法蓮華経
(神力寺便り60号抜粋)